遠くを見る癖

という芝居を見た.

つらかった.

あえて酷かったとは書かないでおく.好みは人それぞれなのだから.10年ぶりに連絡をくれた知り合いが,舞台に昇るから来いということで,はるばる東京の東の果てから西の果てまで向かったのだが,まず乗る電車,降りる駅を間違えた.下北沢にいくつもりだったのに,降りて駅名を確認すると,北千住である.せっかく1705に職場を飛び出し,バスを二本乗り継いで地下鉄に乗ったのに時間がパー.北千住から下北沢までおよそ50min.を費やした.しかしこれはいつもの癖なので仕方ないとしよう.劇場まで駅から徒歩15min.タクシーに乗りたかったのだが走っていな.開演10min.前にたどり着き,まだ空いていた最前列を確保する.しかし定刻になっても始まらない.席の上にある他の劇団のチラシは3部だけ,それに写真展のチラシが1部.いよいよ暗転,久しぶりに見る芝居だったので,余計に期待した.開演前から舞台の上に横にロープが張ってあり,綱渡りの話なのかなんなのか,始まって2分で,夢は打ち砕かれた.出てくるのは,女子高生役二人.一方がリーダー,他方がフォロワー.リーダーが,幸せを見つけに行くんだと,ロープを掴んで右に登っていく.リーダーはジャージ,フォロワーはセーラー服.後半までずっとロープを辿っていくのだろう,二人は白い軍手をはめている.登り始めることになったきっかけは知らされず,リーダーが,ここを登って幸せをつかみにいくんだ,と叫ぶ.かゆい.舞台には奥行きがあり,前後の間に半透明のカーテンが掛かっている.前で左から右にロープをつたい,奥は右から左にロープなしで駆け抜ける.これを数十回.一周約2分.二人でおもしろい掛け合いがあるのかと思いきや,何もない.好きな男の話も出てこない.2分で奥を走るたぬに都度会話が途切れ,前に来た時だけとりとめもないことを好き勝手に語る.リーダーが進みたがり,フォロワーは戻りたがる.リーダーは進むべき根拠を語るが,非論理的無謀で強引である.フォロワーの語る事をことごとく否定する.中盤では,考えることをやめることに合意し,大声で歌いだす.そのうちに,おっさん鳥が二羽,大きな足音を立てて現れる.ずっと登っていって,途中ロープがゆるむ.不安だと言いながら,爺に会う.爺は,峠を抜けると温泉町が見下ろせると宣う.最後,突然フォロワーが,今わたしはしあわせだと叫び,リーダーはまだ幸せが見つからないと喚く.混沌になり,二人が去り,もう一度出てくるが,最初の場面と全く同じく台詞をはじめる.リーダーは,目に見えない幸せというものを探しにいくらしい.無限ループを見て,ちょっと気持ち悪くなった.幕閉じて出口では,主役でフォロワーのお姉ちゃんが,やりきった顔で立っていた.一言おもしろかったです,と大嘘をついて出る.外には,友人と同時期に知り合ったJという役者がいた.記憶にないが,昔は酒を飲んでその人に苛められてたらしい.彼に,芝居どうでしたか,とおきまりなので,おもしろかったですよ,とお決まりの台詞を口にする.こちらも役者である.初日なのに,打上をやるから来いという.昔苛めた相手にである.だいぶ経って爺役の爺いである友人が出てきた.やはりどうでしたかと聞かれるので,おもしろかったですよと答える.嘘も慣れるものである.同じく打上に誘われたが,丁重にお断りする.1900に幕が上がったので流石に2100には出て一杯やって帰れると思ってたのにもう2200.仕方なくコンビニでビールとチーズを買い,駅まで頑張って歩きながら飲んで帰った.

長かった.